ピクセルグリッドが訪ねる、開発の現場 第13回 ソニックガーデン 前編
「納品のない定額制受託開発」という独自のコンセプトで開発事業を展開するソニックガーデンを訪ねました。その独特な考え方のもと、どのような関係を顧客と築こうとしているのか、またその方法は? じっくりとうかがいました。
はじめに
ピクセルグリッドが魅力を感じる会社を訪問し、経営や現場の様子をお聞きするインタビューシリーズ。今回は「納品のない受託開発」をコンセプトにサービスを提供する、株式会社ソニックガーデンを訪ねました。
インタビューに同席したメンバーは、次のとおりです。
- 倉貫 義人 氏(株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長)
- 西見 公宏 氏(株式会社ソニックガーデン 取締役/プログラマー)
- 中村 享介(株式会社ピクセルグリッド 代表取締役、フロントエンド・エンジニア)
- 高津戸 壮(株式会社ピクセルグリッド フロントエンド・エンジニア)
「納品のない受託開発」とは
中村:ソニックガーデンさんは自社開発もされていますが、受託のお仕事では独自の方法を取っていますよね。まずはそこからうかがいたいと思います。
西見:弊社が行っているのは、「納品のない定額制の受託開発サービス」ですね。Webサービスというのはずっと開発し続けなきゃいけないので、売り切り型の開発が向かないと考えています。ですので、ずっとそのお客さまに寄り添って、サービスを提供し続けるということです。
新規事業をされようとしているお客さまに向けたサービスと、お客さまの社内の業務システムに向けたサービスと両方やっています。
新規事業の場合は「どういう事業をしていくのか」という、そのコンセプトから一緒に考えて、それに向いたITを利用したサービスを一緒に考えていきます。
社内のシステムの場合はなかなかコストをかけられないということと、相談できる相手がいないという2つの問題が多いですね。ですから、できるだけ開発費を抑えたいというニーズがあって、そのニーズに合うように相談に乗りながら、開発を受けるのを繰り返していきます。
高津戸:ピクセルグリッドでも、つくったアプリを運用しながら機能を追加して開発するという長期案件をやっていて、まあいわゆる「納品のない状態」に近いんですね。そんな中でソニックガーデンさんのやり方をいろいろおうかがいしたくて。
西見:はい、どうぞどうぞ。
高津戸:クライアントが大きな企業だったりすると、ソニックガーデンさんにお願いするようなやり方で発注できないというケースがありうるかなと思うんです。さっき言ったピクセルグリッドの案件でも、最初に予算ありきなので、こちらから見積もりを出してそこからクライアントの部署を2、3とおして承認を得て、という手順になっちゃって。巨大ウォーターフォール型でしか進められないんだよというところがあります。
西見:ある程度見積もりが求められて、予算取りをどうするかという話ですよね?
高津戸:そうです。そういう形態で発注がくるので。
西見:そこは僕らはかなり明瞭で、費用が月額定額なんですよ。なので、月額に12をかければ年間予算なので、それで予算を取ってくださいというわけです。たとえば、新規事業の場合なら、どうしても使わなくてはいけない機能というのは、考えてみるとそれほどない。でも「こういう検証をしたい」とか、「こういうニーズが高いのでそこに向けて有効なアプローチをしていきます」ということもあります。そのために予算をこれだけ取ってくださいと。そういう言い方ですね。
高津戸:では、最初にクライアントから求められる要件から、それぐらいで、だいたい6ヶ月ぐらいかかるとすると、そのために6ヶ月の予算を見込んでくださいという感じなんですか?
西見:いや、つくる期間は問題じゃないんですよ。ローンチするまでとかいう扱いじゃなくて、ずっとそこに付き合っていくという前提なので。これは、もうほぼ顧問契約なんですね。パートナーとして、一緒にずっとやっていきましょうと。
いわゆる「開発会社」ではない
倉貫:そうですね、最初の時点で、論点の掛け違いがあるかなと思っていて。
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫 義人 氏
高津戸:はい。
倉貫:僕らの仕事は「開発」じゃないんですね。なので、ソースコードをどれだけ書いたとか、プログラムでどれだけ機能をつくったとか、お客さまのシステムを何人月分でつくったかとかいうことは、まったく僕らは商売にしていないんです。
僕らの商売はお客さまの問題解決さえできればいい。極論を言ってしまえば、僕らがお客さまと2時間しゃべってお客さまの問題が解決して満足してくれたら、手を動かさなくても毎月お金をもらうという、こういうことですね。それは僕らが顧問として仕事をいただいているという前提だからです。ですから、先ほどの「このアプリをつくるのに予算はいくら」というような話は、全部システムをつくる会社の話になってしまうんです。
高津戸:なるほど。
西見:僕らはもちろん開発も行っているので、最終的には開発に落ちることになるんです。ただ、それ以前に「どうしてそのサービスをつくるのか」というのがすごく大事だと思っています。こういったビジネスをしたいとか、こういったサービスを提供したいとか、そういう目的があってものをつくっていくので。そこを理解しないとなかなかいいものがつくれないですね。
そのためには僕らの肚に落ちる必要があるので、「なんでこういうふうにするんですか?」とお客さまに聞いていくんです。そうすると、「あれ、なんでこうするんだっけ?」みたいな話になって、ディスカッションになる。その中から良いものが生まれていくので、それを形にすると。
中村:そういうディスカッションをしている時間は長いんでしょうか?
西見:そうですね、まず初回にご相談いただいて、一緒に考えていきましょうということになったなら、だいたい4回ほど無料相談という時間があるんです。
中村:4回は、けっこう長い時間ですね。
長くお付き合いするために
西見:そうなんですよ。僕らは長くお付き合いするのが重要だと思っています。すぐに離れてしまったら一緒にそのサービスを育てていくことができないので。1回や2回会っただけで長くお付き合いできるかと言うとそうじゃない。もっとデートを重ねないと(笑)。ほぼほぼ結婚に近いので、結婚できるかどうかというのをお互い見極める(笑)。
一同:(笑)
西見:4回といっても、一回一回が密度が濃いんですよ。事業の話なんで。システム化するとしたらどういうアプローチがあるかと、そこでガチンコで議論するんです。僕らは要望を聞くだけじゃなくて、本当にそれでいいのかという話をするんです。そうすると相手も本気で構えてくる。かなり内容が濃い時間なんですね。その長い濃い時間を4回も過ごすと、さすがにお互いこの先一緒ににやれそうかやれなさそうか、わかってきますね。
高津戸:でも、お客さまによっては、そういう方法が向かない場合もありそうですね。
西見:そうですね。お客さまとしてもそういうふうに言われるのが苦手な場合もありますし、そうするとこちらも「のれんに腕押し」みたいに、手応えがないというか。そうすると、難しいですね一緒にやっていくのは。
株式会社ソニックガーデン 取締役/プログラマー、西見 公宏 氏
中村:相談したけれども、やっぱり合わないねということも多かったりするんですか。
西見:うーん……話してみた結果、考え直しますということはありました。
中村:ああ、そもそもそのサービスはいらないんじゃなかったの? ということになったりするかもしれませんね。
西見:そうですね、ちょっとまた練り直してきますと言ってまた1年後に、再度連絡してくださるケースもありましたね。そこまで僕らのことを覚えていていただけたんだ、というのも嬉しいです。
一方的な約束はしない、それがチーム
中村:その4回のディスカッションを経て、「じゃあ一緒にやりましょう」となると。でも実際に進めると、お客さまとしては「いつまでにここまで、できるの? できないの?」という話をしてくるんじゃないかと思うんですけど。
西見:そこはお客さまの組織構造をちゃんと捉えておくことが必要かなと思っています。特に大企業だと報告しなくてはいけないので、どういう成果を報告していくかという作戦をお客さまと一緒に考えます。
高津戸:ああ、なるほど。
西見:今期はここまでやっていきましょう、ここでこれを目標にしますという報告ができるようにやっていきましょうと。ただ、それはお客さまの会社の内部の話です。一番重要なのはサービスを届けるユーザーなので、そこへ向けてどうアプローチしていくかということを考えます。それと併せて、社内でもその人の立場が危なくならないように考えながら、きちんとサービスを継続的に配信していくと。
高津戸:でも、どのくらい先に終わるのかみたいな読みってけっこう難しいと思って。最初3ヶ月で終わるって言ったけれども、実際やってみると「ムムム……」ってなって(笑)、2週間ぐらい伸びたり縮んだりするかと思うんですけれども。そういう約束はするんですか。
西見:約束はしないんですけれども、それではお客さまとしては不安だと思いますので、見込みはお伝えしますね。実は約束しないことが重要だと思っていて。
高津戸:ほう。
西見:約束すると、どうしてもその約束を破らないために、バッファーを考えておく必要が出てきますよね。でも、バッファーを積むと、お客さまに届けている価値の30%から40%がバッファーになっちゃうので良くないですよね。
高津戸:そうですよね、わかります。
西見:じゃあどうすればそのバッファーがなくなるかですが、お客さまに丸投げにされないことです。できる限り頑張るけれども、もし難しい場合はできる限り早い段階で「やっぱり無理そうです」と伝えられること。その上で「こうすればうまくいきそうですけど、どうしますか?」という作戦を一緒に立てられる関係にあるというのが一番大事だと思っています。ワンチームですから。
高津戸:お客さまを含めて。
西見:そうです。お客さまと約束するというのは、「どうあろうがそれはお前らの勝手であって、それは期限までにやれ」という関係になって一方通行になってしまう。それを開発側としてはずっと受けなくてはならないですよね。そうすると、なにかあったときのためにバッファーを積もうとディフェンスに入ってしまう。ディフェンスじゃなく、むしろ、オフェンスで一緒に戦えるような関係じゃないとバッファーはなくならない。そんなチームをつくるというのが、バッファーをなくすという意味では一番大事だと思います。
高津戸:お客さまが同じチームの一員になってやるというのは、ある意味理想的だと思うんです。でも、それは先ほどおっしゃった4回のミーティングの中でつくることができるものですか?
西見:完全には無理ですね。やっぱり1年か2年かけて調整していくということはあります。ただ、やっぱり最初のお見合い期間が短いとどうしてもお互いの感覚がわからないので、4回はやりましょうと。さらに、僕らはそこからお試しの開発期間を設けているんです。
僕らは開発の生産性は数値化しないんですよ。金額にあった価値をお届けしますと。サービスをどうやってつくっていくかとか、価値をどうやって計測してするか、諸々そういったことを全部含めて金額に見合った価値を届ける。ですが、お客さまとしては、それはどんなものなのか、というのはやってみなければわからないですよね。だから、1ヶ月お試しで無料でやるので、そこで評価してくださいというわけです。
高津戸:無料でやっちゃうんですか!
西見:無料なんですよ(笑)。
基本はフルスタック・エンジニア
中村:実際にどうやって案件を進めているのか聞かせてください。だいたい、1つのプロジェクトにエンジニアは何人ぐらいアサインされるんですか?
西見:基本はメインが1人です。もう1人サブプログラマーとしてつきます。これが基本構成ですね。初回相談は僕が入っているんですけど、一緒にやっていって、だんだん僕が抜けていくと。なので、初めは3人ぐらいですね。
高津戸:その3人ぐらいで相談から開発から全部やると。
西見:そうです。基本的にプログラムを書くだけという人はいません。ただ、お客さまとは、実人数という話はしていないんですよね。何らかの方法でこの価値を届けますということです。ですからお客さまはその中は気にしなくていいんです。値段に見合った価値を受けてくれればいい。僕らはそれを達成するために何を使うかということになるのです。
中村:だから、料金体系は月額いくらのワンプライスなんですね。それに人数などの話は含まれないと。
西見:そうです。
中村:エンジニアといってもフロントエンドだったり、サーバーサイドだったりいろいろいますよね。ソニックガーデンさんはRubyの会社かなと思っているんですけれども、そうなるとフロントエンドのHTMLとかCSSは誰が書くのですか?
株式会社ピクセルグリッド 中村(右)、高津戸(左)
倉貫:僕ら、基本的にはフルスタック・エンジニアですよ。
中村:全部書くと。
倉貫:そうです。フロントもサーバーサイドも全部やるというのが基本です。やっぱり運用がわかっていないとサーバーサイドも書けないし、フロントのこともわかっていないと。全部連鎖をしていると思うんですよね。
ただもちろん各人に濃淡はあって、これは得意これは苦手というところはあります。そこを補い合っていいサービスをつくっていくというアプローチをしています。基本はすべてできるんだけど、そこから得意分野と苦手分野があって、苦手なところは手伝ってもらうというような感じです。
中村:なるほど。そういったエンジニア間や、それからお客さまとのやり取りはどうしているんですか?
(後編に続く)
(構成:編集、丸山 陽子)